香料屋さんが綴る、「香り屋日記」香りに関わる富士香料化工のスタッフが、日々感じた事を連載していきます。
2014年08月05日
真夏の夜の出来事
真夏の夜である。少し蒸していて、風にさえ質量を感じるような気さえして、また冬の夜の様な静寂さはない。満月が南の空に高く白く輝いて、本来そこにあるはずのベガ・アルタイル・デネブの姿を見事なまでに掻き消してくれていて、己が存在自体をすべての空に対して主張しているかのようである。光源とするには心もとないが夜の空間には眩いくらいであり、地上には影を造り出す程の光である・・・。
先程から、微かな風に混じってターメリックの様な香辛料の香りが運ばれてくるようになっていた。ぼんやりした頭の中で、正体は何処かの家の夜食のポークカレーか?と考える。幻滅して我に戻った。現時点で侵入してくる他人の家の夜食の香りは不愉快である。ぼんやりと空を眺めて悦に浸っていたのに刺激臭?で強引に現実に引き戻された感がある
。思わず、その方向に視点を向けるが、だから何の世界である。夜景しかない。当たり前である 。また、いつまでも続く状況では無い事を経験が教えてくれている。たかだかの辛抱であると。
光と異なり、いったい香りは、どこまで届きうるのか?当然香りの種類で結果は異なるのは容易く想像できるし、条件と言っても、さほどあろう筈もない気がする。最近レンタルで見たブルーレイの映画の中では、主人公達の匂いを嗅いで、追手である敵(獣や竜)が、主人公達を追跡する場面が何度も登場していた。
と、ここで思考が停止した。この先を考えていく事が面倒臭くなった事もあるが、いつの間にか、先程の場違いな匂いが消えていた
からである。正直ホッとした。「静かな夜」を楽しむ時間が再び訪れた。
要は嗜好の問題の方が重要であり、シュチエーション次第で理屈は抜き。人とは香りに対して我儘である。必要だったり不要だったり 、忙しい事である。
[あろまー]