香料屋さんが綴る、「香り屋日記」香りに関わる富士香料化工のスタッフが、日々感じた事を連載していきます。
2018年10月23日
秋に思うこと
秋の果物といえば、何を思いますか?
わたしは迷わず、柿!と答えます。
なぜなら、ここ和歌山県橋本市にはたくさんの柿畑があり、ありがたいことに毎年地元の方がダンボールいっぱいの柿をおすそ分けしてくださるからです。
さて、栄養価も高く甘くて美味しい柿ですが、フレーバーを作る我々からすると、これが困ったことにかなりの曲者なのです。
その理由はかんたん。柿にはこれといって特徴的な香りがないからです。もちろん、柿そのものを分析機器にかければ、香気成分は検出されます。
しかし、桃やいちごのように手にとっただけでその果物特有の香りを感じるわけでもなく、口に含んだ瞬間もとろみのある甘さはありますが、ぶどうやりんごのように一口噛んだだけで果汁や果肉から感じる香りがはっきりしているか、といわれればそうでもないと思います。これは柿だけでなく、いちじくやびわにも共通する課題だと感じています。
でも、こうも思います。そもそも例に出した桃やいちご、ぶどうやりんごも本当にその果物そのものの香りははっきりとわかりやすいものなのか、と。
桃やいちごの香りを今思い浮かべてください。と言われたら、その果物そのものを食べたときの香りを思い出す人もいれば、その果物をイメージしたお菓子や飲料の味をイメージする人もいると思います。
お菓子や飲料には多くの場合、香料が入っていて香料でその果物のイメージを表現しているので、それは果物そのもののイメージではなく、その果物の香料のイメージを思い浮かべていることになります。
桃やいちご、ぶどうやりんごなどは昔からそれをイメージしたお菓子や飲料は数多く発売されています。
一方、柿をイメージしたお菓子や飲料はそれらに比べてどのくらい市場に出回っているのでしょう。
あるいは、柿の飲料といえばこの味、この風味!といえる商品ってどのくらいあるでしょうか。
果物そのものにこれといって特徴的な香りがないゆえに柿の香料を作るのは難しいこと。
それに加えて柿の代名詞ともなるお菓子や飲料が少ないため一般的に共通する柿のイメージが乏しいことも、柿の香料を開発する上で難しい点になると思います。
ならば、自分たちでオリジナルな柿の香料を開発し、それを広く世に広めてしまえばいずれはその香料の香りが世間の柿の香りのスタンダードとなるかもしれない。。
フレーバーリストは皆それぞれそんな大きな夢を胸に秘めているのかもしれません。
猩々