香り屋日記

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香料屋さんが綴る、「香り屋日記」香りに関わる富士香料化工のスタッフが、日々感じた事を連載していきます。

2024年05月21日

喫茶店

子供の頃、風邪をひいて学校を休むことがあった。
そんな日は具合の悪い顔を取り繕おうと必死だったのを覚えている。
母に他のきょうだいには内緒よ、と連れていってもらえた喫茶店があるからだ。

カランコロンとドアを押し開けカウンター席を見やれば、自分くらいありそうなコーヒーサイフォンに圧倒される。
巨大なガラス細工を横目にようやっと秘密基地に来られたな、と心躍っていた。
メニューとにらめっこして結局選ぶのは看板メニューのセットだった。
店主に旅先の写真を見せてもらったり、そこでの話を聞かせてもらったりしながら、
厨房で準備している空の皿が埋まっていくのを眺めていた。

そういえばあの喫茶店はどうなったのだろうか、と思い立って先日帰省した際に立ち寄った。
記憶よりかなり小さく見えるサイフォンを眺め、どんな味だったかなと看板メニューのセットを頼んだ。
ツナとマヨネーズのフィリングにバターが塗られたホットサンド、ケチャップが濃厚な昔ながらのナポリタン、
フレンチドレッシングがかかったキャベツのサラダ、砂糖漬けチェリーがのっかったヨーグルトムースに、
割るタイプの甘ったるいオレンジジュースだった。
記憶のままの見た目、どれもこれもがああこんな味だったなとひどく懐かしくなった。

慌ただしい帰省だったため長居はできなかったのだが、それでも子供の頃を思い出すには十分な時間だった。
次訪れた時にはずっと口に出せなかったチョコレートパフェも頼んで、過去の憧れも清算したいものだ。

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